症状・症例

ケース12

症例:少量の椎間板ヘルニアにより、強い神経症状を起こした例 トイプードル 2才

朝からふらつきが始まり、急に歩けなくなったとの事で動物病院へ来院し、神経症状が疑われ当院に紹介で来院されました。
当院来院時には歩行は不可能で、両後肢は伸びきって(痙性麻痺)自力で動かせない状況でした。(完全麻痺)
また、足先の痛覚もかなり弱っており、強い神経損傷が疑われました。
緊急性も高いと考え、すぐにMRI/CT撮影を実施しました。

【MRI検査】
第13胸椎-第1腰椎上の神経が右寄りの腹側より軽度の圧迫が認められました。また、第2−3腰椎上の脊髄はT2強調画像で高信号(白)を示し、脳脊髄液ラインもなくなっていることからこの部位での神経の炎症・浮腫・損傷が疑われました。

【CT検査】
MRI同様に、第13胸椎-第1腰椎上に高CT値の脊髄圧迫物質が少量確認されました。

【診断】
第13胸椎-第1腰椎における椎間板ヘルニア+脊髄の炎症・損傷 G4−5

【治療】
通常椎間板ヘルニアで神経症状が重度の場合には飛び出ている脊髄圧迫物質の量も多量なことが多く、ある程度量に比例した症状が出ることが多いですが、今回のように少量の圧迫物質でも髄核(椎間板の中身)が飛び出る時の速度が速いと少量でも脊髄の損傷が強く出る場合があります。(3型ヘルニアなどと呼ばれる)。若い子の方が圧迫物質が柔らかいことが多く、脊髄の損傷が強く起きる傾向があるように感じます。
この子も少量の圧迫物質と脊髄の強い炎症が疑われる状況でした。
このような場合、手術を行っても経過が良くないことも多く、手術自体を行わない場合もありますが、今回はある程度は圧迫物質が認められたことと、飼い主様の希望で手術を行いました。
手術は第13胸椎-第1腰椎で片側椎弓切除(ヘミラミネクトミー)を実施し、やはり少量ですが椎間板物質が認められたのでこれを除去しました。
また、第1−2腰椎では浮腫による脊髄の圧迫も認められたので、圧迫の軽減のために同様にこの部位でもヘミラミネクトミーを実施しました。

■術後1日
術後はやはり両後肢の強い麻痺が認められ、脊髄の損傷によりシフシェリントン徴候も確認されました。(脊髄の損傷により寝ていると前足も伸びてしまう状況)

■術後3日
少し足先の痛覚が確認され始めました。

■術後7日
足先の痛覚が少しずつ良化し、起立を維持するのが可能となりました。

■術後14日
左後肢を自分で少し動かせるようになりました。

■術後21日
右後肢も自分で動かせるようになり、前足をうまく使いながらなんとか歩行が可能な状況となりました。

■術後28日
歩行状態がさらに改善し、散歩に行けるまで改善しました。
この子は脊髄の損傷は強かったと思いますが、なんとか時間をかけて良くなってくれました。
まだ若いので、今後さらにリハビリを続け、普通の生活が送れそうです。