症状・症例

ケース15

症例:複数箇所の頸部椎間板ヘルニアにより症状を起こしていた症例 ポメラニアン メス 10歳

四肢麻痺(歩けない、立てない)の状態で来院されました。
当院来院半年くらい前から後ろ足のもたつき(麻痺)が出始め、その後4ヶ月で前足にも麻痺が起き始めたとの事でした。
神経学的検査では脳神経検査に異常は認められず、四肢すべての麻痺が認められ、頸部の神経疾患が強く疑われたので画像検査を行いました。

MRI検査では第4−5頚椎と第5−6頚椎間で椎間板ヘルニアが認められ、脊髄の圧迫が確認されました。
圧迫の程度は第5−6間の方が強いものの造影検査でも両方とも炎症が疑えました。

CT検査(脊髄造影検査)ではMRI検査と同様に第4−5頚椎と第5−6頚椎間での脊髄の圧迫が確認されました。

首の椎間板ヘルニアで治りにくい頸部痛が認められた場合や足の麻痺が生じている場合などは通常手術による治療が望ましいと考えます。
ただし通常のヘルニアは一箇所で起こることが多く、治療はシンプルなのですが、稀に今回のように複数箇所でのヘルニアが認めらえる場合があります。
複数箇所のヘルニアがある場合には、症状の出方(麻痺の方向など)や画像検査にてより重度であるヘルニアの手術を行うことが一般的ですが、今回のように複数箇所存在し、なおかつどちらが原因かわからない(もしくは両方とも原因となっている)場合には両方の 手術が必要となります。
首のヘルニアの手術は腹側減圧術(ベントラルスロット)という方法で行うのが一般的ですが、二箇所同時に行うと首の骨が安定しなくなり術後の脱臼などの可能性が高まり危険なのでヘルニアを取り除いた後に背骨の固定が必要となります。

今回も腹側減圧術を第4−5頚椎と第5−6頚椎間の二箇所で行い、その後背骨の固定を行いました。背骨の固定にはピンやスクリュー、プレートや骨セメントでの固定など方法がありますが、今回はスクリュー(matrix mandible 2.0mm)と骨セメント(PMMA)にて固定を行いました。
※今後もヘルニアが起こった場合にMRI撮影が必要になる可能性があるため、チタン製のスクリューを使用。

■術後3日
左前足の麻痺の軽減が認められました。

■術後5日
起立や歩行は難しいものの、四肢の麻痺の軽減が認められ始めました。術後の痛みも軽減してきたため、立つ練習などのリハビリを開始しました。

■術後23日
神経学的検査では四肢共に麻痺は認められなくなりました。
経過が長く筋力の低下も認められるため立つことは可能ですがまだ自力で歩くことは難しいですが補助してあげれば歩けるようになりました。

■術後53日
まだふらつきもあり完全ではないですが自力で歩くことが可能となりました。
レントゲンで固定した金具も問題なく、その後積極的にリハビリを行ってもらい少しずつ改善しているところです。