「ヘルニア」という言葉を聞いたことがあっても、ヘルニアとは何か?という問いに答えられる方はそう多くはないかと思います。
ヘルニアとは、臓器の一部、または全てが正しい場所からズレてしまった状態を指す広い概念であり、そのズレ(体内の裂け目や隙間)からおなかの中にある横隔膜が破れて腹部臓器がはみ出してしまった状態を「横隔膜(おうかくまく)ヘルニア」、腹部の組織がへそから飛び出してしまった状態を「臍ヘルニア(でべそ)」、腸管が後ろ足の付け根に当たるソケイ部から飛び出してしまった状態は「鼠径(そけい)ヘルニア」などと呼ばれています。
ヘルニアには、先天性のものと後天性のものがあります。
背骨の骨と骨の間にはクッションがあります。その部分を“椎間板”と呼ぶのですが、椎間板が何らかの原因で正常な位置から逸脱し、神経側に飛び出てきてしまったことで脊椎の中を通る脊髄(太い神経)を圧迫する状態が「椎間板ヘルニア」という病気なのです。
その症状は圧迫される神経の場所や状態によって様々な症状を呈します。
犬の椎間板ヘルニアが最も起こりやすい場所は胸椎と背中と首ですが、ペットは言葉を話すことができないため、発見は容易ではありません。
気付くことが遅くなったり、多少の動きの変化も“少し様子を見よう”“治らなければ病院に連れていこう”と、診断が先延ばしになってしまったりしている可能性が大いにあります。
放置し続け、麻痺した状態が続き神経の細胞が一度破壊されてしまうと、二度と再生することはありません。(研究段階の再生医療はのぞきます)
椎間板により圧迫されている神経細胞は2・3日もすれば破壊されてしまいます。
犬の椎間板ヘルニアは2つの型に分類され、急性に発症するタイプをI型椎間板ヘルニア、加齢に伴い変性を起こし発症したタイプをII型椎間板ヘルニアと呼びます。また、椎間板ヘルニアなどで脊髄が損傷すると、脊髄の融解壊死が起こる事があります。
ごく稀に、この融解壊死が進行し止まらないことがあり、この状態を「進行性脊髄軟化症」といいます。最終的に亡くなる可能性の高い病気です。
椎間板ヘルニアは診断において、進行度により段階で分類されます。
椎間板ヘルニアの症状で一番軽度の症状のものが痛みのみ存在する状態です。
麻痺まではいかないが正常な歩行ができない状態です。
グレード3以上は麻痺を伴う重度の症状です。
グレード3では自分の意志で排尿を行い、また、足先を軽くつねった際に明らかに痛みを主張することができる状態です。
痛覚の有り無しは経験のない獣医師では引き込み反射(足の先をつねったときに無意識に引き込む反射)を痛覚有りと判断してしまうことがあります。
自分での判断は難しいかもしれませんが、浅部痛覚が無い状態は進行してしまうと回復率が極端に低下するグレード5です。
この状態は回復率が著しく低いものになります。足先の骨をペンチのようなものでつまんでも表情の変化すら認められません。このような状態になる前に適切な診断・治療を行うことが望まれます。
判断の基準となる症状がいくつかありますが、ここでは代表的な6つの症状を取り上げます。
圧迫されている脊髄自体の痛みです。抱きかかえるなど背中・背骨または首や腰を急激に動かしたときに「キャン!」と鳴く場合は痛みがあるものと思われます。
自分の体の各部分がどこにどのように位置しているのかを認識できているかどうかということです。固有位置感覚に異常があると、立っている時や歩くときに通常通りの手足などの動きが出来なくなるため、ふらついたり手足を引きずる動きをしたりします。
一般的な感覚を失う麻痺と異なり、ここでは十分の意思で動かせなくなることを言います。全く動かせなくなる「全麻痺」と思い通りにはあるいは力強くは動かせないが動かすことは出来る「不全麻痺」と区別されることもあります。
自分の意思でおしっこを出来るか否かです。おしっこは出ていても、意思にかかわらず「垂れ流し」の状態は自力排尿が出来ない状態と言います。
たとえば皮膚のような体表面に近い部分の痛みを感じる感覚の有無または低下のことです。通常、足先をつねるなど皮膚に痛みを加えて反応を見ます。
この際に、つねるという刺激に反射して足を引っこめることもありますが、これは「引き込み反射」と言って痛みに対する反応ではないので、区別が必要です。
骨などの体表面から離れた所に位置する部分の痛みを感じる感覚の有無または低下のことです。通常、足の指を骨ごとつねるなどして反応を見ます。
この際に、浅部痛覚同様「引き込み反射」との区別が必要です。
首の骨や軟骨の異常によって起こってくる症状は多岐に亘ります。
頚部椎間板ヘルニアは疫学的には犬の椎間板疾患の20%程度の発生率であると見積もられており、激しい疼痛や四肢の麻痺を引き起こす疾患として知られています。